「今日、ちょっと飲んでもらいたい酒があるんですよ」
「お? 何?」
「これなんですけど」
と言いながら、マスターが出した酒は
マルスウィスキー「岩井トラディッション」
「例のカラスミを炙ったので、
それに合わせるならコレが良いなと思ったんですよ」
「カラスミならアイラテイストのウィスキーが良いよね」
マルスウィスキーと言えば、
まっさん(竹鶴政孝)をイギリスに送った岩井喜一郎が
顧問となった本坊酒造が送り出す地ウィスキー。
岩井氏がいなければ、
今のジャパニーズウィスキーが存在できたかがわからない、
と言っても過言ではないだろう。
竹鶴ノートに従って昭和35年に山梨工場の
ウィスキーラインを竣工し昭和60年には
信州マルス蒸留所を竣工した。
ただ、サントリーの乱暴な経営戦略がウィスキーの質を落とし、
一時期は色のついた臭い焼酎とまで揶揄されるほどのウィスキー離れが起きて、
世の中は安くて楽しい焼酎ブーム到来により、ウィスキー需要が激減。
マルスウィスキーも平成4年に蒸留を休止することとなった。
サントリーは、酒文化を維持するための様々な取組を行っているが、
同時に商売としてはかなりしたたかな戦略を展開し、
安価な物から良質な物まで幅広く販売しているが、
良質な物に付ける価格がちょっとばかり大胆だ。
ウィスキー人気が落ちた頃、純粋にウィスキーという酒が好きな人が
良質で安価だったモルトウィスキーを飲むようになり(自分もそうだけど)
ジワジワとモルトブームが湧いてきた頃に、ニッカの美味さも知れ渡っていく。
だけど、NHK朝ドラの「まっさん」が放映されるまでは
どこかでまだまだな状況は続いていて、
ニッカは2001年にアサヒビールの完全子会社となっていた。
だから、というわけではないだろうけど、
「まっさん」が放映される頃から、とにかく今ある在庫を売ってしまえ・・
とばかりに、販売攻勢。
2015年の10月には、ニッカもサントリーもビンテージ入りモルトウィスキーの
販売を休止する状態になってしまった。
「今日は、半分ガチ焼きにしました」
「お〜 美味しそうだ」
「このサシの加減だと、ガチ焼きも美味しいと思って」
ウェルダンで焼くと、肉は嫌でも本性が出る。
脂という旨味が弱まり、柔らかさも減るので、
肉本来の姿がわかってしまうのだ。
逆に言えば、
レアで焼くと柔らかさも脂も演出できるので
暖かいうちなら、安い肉でも楽しく味わえる。
(それでダメなら、山葵醤油!)
ステーキを頼む場合、焼き方はいつもお任せで、
この店では、時間的な余裕がある時に、
こうやってミディアムレアとガチ焼きを同時に出してくれたりする。
うん
やっぱ、ガチ焼き、楽しいわ(^_^)
「岩井って良い酒ですよね」
「このクオリティで、この価格は凄いですね」
「竹鶴ノートに従ってウィスキー作りをしているからか
やっぱりニッカの雰囲気があるけど、ニッカより優しい感じもする。」
「マルスってよく飲まれるんですか?」
「ストックに駒ヶ岳25年が一本あるだけ・・だけど、
スコッチでもニッカでも無い気分の時に、飲むよ。」
「基本、スコッチかニッカしか飲まないんですか?」
「いやいや、バーボンも飲むし、グレーンだって飲むし
アイリッシュも好きだし、ジャパニーズだってイチローズモルトとかね」
「山崎とか?」
「サントリーは悪酔いするから、ほぼ飲まない」
「え?」
「当たってるどうかはわからないけど
サントリーが使うミズナラの樽の個性が身体に合わなくて、
サントリーのウィスキー飲むと頭が痛くなったり、悪酔いするんだよね」
「樽・・ですか?」
「ウィスキーの個性を決める中で、樽の持つ個性って大きいんだよ。
マッカランなんて、良質なシェリー樽で熟成するからあの味わいがあるんであって、
同じ原酒でも、違う樽で熟成したボトラーズ物は、まったく違う味わいになるんだな」
この店、鉄板焼きの店でありながらバーでもあって、
マスターはイタリアワインのソムリエ資格を持ってたりするから、
ワインはコストパフォーマンスが良い物が揃っている。
で、ワイン以外の酒も、狭いバックバーの中に渋いラインナップで揃っているけど、
岩井トラディッションが入ってくるのは想定外だった。
「そう言えば、酒ってグラスで味が変わるよね?
ここのワイングラスって、独特な大きさなんだけど・・・」
「これってキャンティグラスって言われてるもので
イタリアでキャンティを飲むならコレって常識になってるグラスなんですけど・・」
「ど?」
「この前、新しいのを仕込もうと思ってメーカーにオーダーしたら
形が違うんでんすよ。ほんの少しだけど幅が大きくなってて飲み口の角度も違う」
「あ〜
バカラなんて、ワイン名が付いてるグラスをたくさん用意したりして
とにかくグラスとワインは大切な関係だって知ってるけど、
同じ名前なのに違う形って・・・」
「で、この形の物を日本中の在庫の中から探してもらったら
6脚だけありました。」
酒とグラスの関係はドリンカーとしても拘りたいけど、
客商売としてもワンショットの量の演出にも関わるから大事なもの。
彼が提供するグラスワインが美味しいのも
そんな関係を熟知しているからなのだろう。
あれ?
晩飯食べに来たのに、酒がメインになっちゃったなぁ・・・(爆)
ごちそうさまでした。
☆☆
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2017年10月20日金曜日
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