「そうなんですか。
自分が高校に通ってた時には既に営業してた店ですけど、
ちょっと敷居が高そうに見えたので入った事がありませんでした。」
「普通の蕎麦屋だよ。
彼処の娘がカレー南蛮そばを勧めてくれてさ。
池波正太郎のエッセイにあった事を話したらアッチも知っててさ、
だから行くと、ついカレー南蛮を頼んじゃうんだよ」
「そこまで言われると、蕎麦食いたくなりますね。
行きますか?」
「俺は良いから、お前行ってこい」
そんな会話をしたのは、何年前だろうか。
だがそれは、
自分にとって何故か敷居が高かった蕎麦屋「木の芽」に行くキッカケになった。
なるほど、極普通の蕎麦屋だった。
高校時代に見ていた店舗は改装されていたけど、
客層やメニューから町の蕎麦屋な気配が漂っていた。
そして、手繰った蕎麦はお?って声が出るくらい美味しくて、
老舗として生き残ってきた力がそこにある、と思わせるに十分だった。
コロナ禍で、行くチャンスを失っていて、
どこかで彼処の蕎麦食べたいと思い続けていたのだけど、
何となく大将との思い出もあるので、足が遠のいていた。
だけどやっぱり、今の「木の芽」の蕎麦を楽しみたい、
という欲望の方が強かった。
ランチ客が消えてちょっと落ち着く午後、
町の蕎麦屋で微睡んだ日々を思い出しつつ酒を飲もう・・と出張ってきたのに、
暑さに負けての生ビール。
アテは食べたかった「カツ煮」にした。
蕎麦屋で食べたい物の一つに「カツ丼」がある。
だけどそれを食べちゃうと腹いっぱいになるので、この「カツ煮」を食べる事が多かった。
うん、コレだよね!
タマネギで甘くなった汁に浸って柔らかくなった衣の楽しさ。
ちょっと固くなっても楽しめる肉の味わい。
もう、ビールと合わせたらヤバいって位、楽しい。
ちなみにカツ煮は、その店の状態をよく表す料理だと思っている。
例えば、経営上の理由で材料を絞っている時には、カツの厚みに如実に表れるのだ。
勿論、蕎麦にも影響が出るのだけど、蕎麦屋だけにソコは譲らない店も多く、
こういったメインじゃない料理に影響が出やすいって思っていたりする。
そんな事に気づいたのは、
自宅そばのお気に入りだった蕎麦屋が代替わりして、
一時期「紙カツ」かよ?って言う位に薄くなった事があったのだ。
(薄いだけじゃなくて、肉その物が食べるに値しないほどよろしくなかった)
蕎麦の変化はわかりにくい。
あれ?こんな蕎麦だっけ?って思う位が関の山で、
汁の味の方がまだわかりやすいかも知れない。
その店は、価格を上げられない事情があったのだろう。
代替わりした際にリニュアルした店舗の改装費や、
スタッフ総入れ替えしてユニフォームを設定するような変更が
材料のコストに跳ね返ったと邪推したくもなった。
勿論、その後の変化を確認には行ったけど、
夜に酒を頼むとお通しが強制的に出て料金が発生するし、
関内の「利休庵」にも並ぶ様だった蕎麦の美味さは消え失せたまま。
汁の美味さも戻らなかったから、行かなくなってしまった。
あぁ、ちょっと酔っ払いだね。
「食い物の恨み」って言葉があるけど、好みの味わいを失う哀しみも恨みになるのかな?
・・と、愚痴っぽい自分を嗜めつつ、
木の芽に来たら食べたい「冷やし焼き玉子そば」をオーダーする。
蕎麦屋のアテとして頼みたいモノの一つに「出汁巻き」があるけど、
そんな感じの玉子焼きが蕎麦の上にのったこの一品は、
飲みながら手繰る蕎麦としても優秀なのですな。
あれ?
なんかちょっと、以前と違う感じがする。
どこが違うんだろう・・・・
あぁ・・・
玉子が薄いのか。
って言うか、ちょっと焼き方もアレだよ?
なんか、ただ卵焼いただけの玉子焼きって感じ。
ちなみに以前はこんな感じだった。
(2012年 夏 撮影)
厚みも大きさも違うし、この玉子焼きは出汁巻きに近い味わいだった。
蕎麦は?
あ・・・
なんか普通だ。
正直言っていい?
劣化してるよ?
とは言え、コロナ禍の影響に加えて
材料費高騰ってのは大きいのだろう。
賃金が上がらないのに物価が上がれば、
客は値上げした飲食店から離れざるを得ないって現実はあるよね。
アメリカの利上げはあまりに乱暴だけど、
それがキッカケで利上げをしない日本は円安方向に振れて、
結果的に世界から見ても円の価値が下がってしまったのが現実だ。
安くて量がある事で有名な「味奈登庵」でさえ、
「もりそば」(蕎麦粉50%)が600円(フルサービス店価格)の時代。
「木の芽」は「もりそば」を700円で出しているのだから、
凄い努力をしているはず。
う〜〜ん
厳しい時代だねぇ。
安くて美味しい物の「安い」というレベルが
どんどん変わらざるを得ないのだろうね。
と言う事で、
カツ煮は楽しいから、つまみと酒を楽しんで、
最後は大将の様に「カレー南蛮そば」を頂くってのが良いのかも。
と言う事で、写真撮って帰ります。
ごちそうさまでした。
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